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Creator: 川﨑 キヨ
Summary:  この年になると、若い頃の後悔ばかりが頭をよぎる。そして、やたらと不思議なことに遭遇する。いい年して、奇跡というものを信じたくなる。
 もしかして、あれもそうだったのか。

 当時、俺はアメフトのスタジアムで警備員として働いていた。
 そして、ある日の夜、仕事帰りのセカーカス・ジャンクション行きの電車の中で、見知らぬ少女に声を掛けられた。
「おじさん、ニーノでしょ。ジャズ・ミュージシャンのニーノ・ウイリアムズ」
 俺は困惑した。ジャズ・ミュージシャンだったのは、今から30年も昔のことで、今の俺の知り合いでも知っている奴は、ほどんどいなかったからだ。
「私はキャロル。それじゃ、またね」
 名前も顔も心当たりがなかった。
 そして、少女は電車を降りて、そのまま群衆の中に消えていった。
 次に少女と会ったのは、それから10日後のこと。場所は自宅近くの教会のチャペル。そこで腕組みをして、目を閉じて時間を潰していると、声を掛けられた。
「おじさん、こんにちは」
 それから俺達は、馴染みのカフェに行った。
 すると、そこで少女は思いがけないことを口にした。
 少女はかつて俺が本気で愛したジュリエットの娘。そして、そのジュリエットは1週間後のクリスマス・イヴにかなり難しい手術を受けなければならない、と。そして、それまでは面会謝絶で合うこともできない、のだと。だから、手術の当日、病院の外から歌を歌って母親を励ましたい。そのためにも、ニーノトリオを復活させてほしい、と。
 ニーノトリオはかつてアメリカのみならず、世界中で活躍した伝説のジャズトリオだった。ピアノの俺の他、ウッドベースのセス、ドラムのロバート。そして、ボーカルがジュリエット。
 そのジュリエットが好きでよくステージで歌っていたのが、「スマイル」。ナット・キング・コールやマイケル・ジャクソンも歌った名曲だ。
 しかし、ニーノトリオは約30年前に解散した。ジュリエットが突然俺達の前から姿を消したのがきっかけだった。
 そして、その後、俺は音楽から一切離れて生きてきた。
 俺はキャロルの仲立ちもあって、30年振りにセスやロバートと再会した。そして、ジュリエットのために、ニーノトリオは復活した。
 しかし、俺達にはそれぞれ拭いきれない過去の深いわだかまりが残っていた……。
Price: ¥350

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