小説『針の止まった子供時間』 LEVEL 3
2 years ago
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小説『針の止まった子供時間』著・晴れ時々猫さん
https://estar.jp/novels/25764762
P5~ 「過去:野田優臣」
https://estar.jp/novels/25764762/viewer?page=5
挿絵描かせて頂きました。
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俺はつけていたウィッグと眼鏡を鞄に仕舞い込み、ネクタイを緩めた。
「ていうか。それ何の趣味なの⁉ 変装? いっつもそんな格好で学校通ってるの?」
「そうだよ」
「なんで?」
「付きまとわれるから」
「誰に!?」
驚いた顔をして俺を覗きこんでくる野田に、ぴたりと歩みを止め、後ろを振り返った。
「こういう怖いお兄さん達に」
巷で俺は有名だった。
中学生にして大人を滅多打ちにしたことがあったから。弟がいちゃもんをつけられて恫喝されたことがきっかけだった。直人と二人でボコボコにしてやった。
柄沢と飯島
ちょっと喧嘩が好きな奴らの間で、俺たちの名前は一気に広まって、今では事ある毎に絡まれる。個人的には、喧嘩なんてしたくはない。何故なら、痛いから。それ以外の理由があるとするなら、この制服を汚したくないから、だろうか。どっちもすこぶる嫌だ。
人を殴るとこちらも痛い。殴られることも痛いけど、殴ることだって痛いのだ。心が痛むとかそんなメンタルの話をしているのではなく、肉体的に本当に痛いのだ。骨と骨がぶつかるのだから、痛いに決まっている。
「お前……、柄沢結翔……だったのか」
三人の中で一番喧嘩好きそうな男だ。
「そうで~す。どうでしたか、俺の鉄板入り財布」
「よ~く効いたよ、いてぇな、アレ……っ」
「そうでしょ? 結構重量あるもん」
「な……めくさりやがって!!! クソガキィィィ!!」
一気に着火した男に野田がビクっと体を揺らしたが、俺は野田の腕を掴んで引っ張った。
「逃げるぞ! 走れ!!」
「えっ! えぇぇっ!?」
まさか俺が逃げ出すなんて微塵も想像してなかったのだろう野田が、足をもつれさせながら慌てて走り出す。
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(*小説お借りしています。