グラスハウス LEVEL 7
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2 months ago
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彼女の案内された部屋は、一見してわかる異様さがあった。
初めは全面鏡張りかと思ったが、ゆらゆらと動いている。
水だ。
壁一面がまるで水面のようになっているのだ。
ガラス張りの中を水が滝のように落ちているのだろうと思って近づいてみた。
「違うよ。触ってごらん」
彼女を案内した男が言った。
おそるおそる彼女は指を近づけると、冷たい水に指が濡れた。
「その濡れた指で、円を描いてごらん」
彼女は戸惑ったが、言われるままに指を回した。
すると水面から不思議に澄んだ音がした。
まるで、天から光の粒がこぼれるような音色だ。
「どうだい。いい音だろ。昔のヨーロッパではこうした楽器があったんだ」
彼女は背後から近づく男を振り返って見た。
「ワイングラスの縁を濡れた指で触れると、こうした音色が出る。グラスハーモニカって言うんだ。音程はグラスの大きさや水の量で決まる。演奏は極めて難しい。だが僕の思った通りだ。君の奏でる音は実に素晴らしい」
男は満足そうに笑った。
彼女は緊張で身を固めた。
この男は、私に何をさせようというのだろうか。