月下交信
2 months ago
*/10
燃える廃墟の真ん中で、緑色の公衆電話だけが静かに光っている。 崩れたビルの影、赤く揺れる炎、やけに澄んだ満月。
その前に、座っている子がいた。
受話器を耳に当てて、電話をかけてる。
「どこにかけてるの?」
思わず足を止めた私に、彼女はゆっくり振り向く。
「……」
彼女はガムを膨らませ、何も話さない。
ぱちん、と小さく割れる音。
ピンクの風船がしぼんで、また口の中へ戻る。
受話器の向こうからは、かすかな呼び出し音が続いている。
ツー……ツー……と、この街の鼓動みたいに。
「つながるわけないよ、それ」
私が言うと、彼女は肩をすくめた。
「うん。まだね」
まだ。 その言い方が妙に引っかかった。
「誰に?」
少しだけ間があって、彼女は視線を外す。
「宅配ピザ、お腹すいちゃって」
「……この状況で?」
「チーズ多めが食べたいの」
ツー……ツー……と、受話器の向こうで呼び出し音が鳴り続ける。
燃える街の真ん中で、ピザの注文だなんて。
冗談にしては声が落ち着きすぎているし、本気だとしたら、どうかしている。
「配達なんて来るわけないよ」
ビルは崩れ、道路は割れ、標識も倒れている。
もう地図に載るものなんて、どこにも残っていないのに。
「だからだよ」
彼女はあっさり言った。
受話器を耳に当てたまま、足をぶらぶらと揺らす。
「無い場所に届けられたら、ちょっとすごくない?」
炎の赤が頬をかすめ、月の白が横顔を縁取る。
この世が終わりかけているというのに、
彼女はそうして、ガムを噛み続けていた。
-----------------------------
公衆電話×廃墟+JKで描いてみました。当初は、昭和レトロなポップイラストを目指していたはずなのに、はずなのに、こんな退廃的な雰囲気に(´∀`)
尾尻塾は塾生を募集しています。塾生みんなで健全なイラストを描きましょう(´~`)クチャクチャ