小説表紙『ただΩというだけで。』
4 years ago
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小説『ただΩというだけで。』著・彩月志帆さん
https://estar.jp/novels/25284114
小説表紙描かせて頂きました。
既に読まれている方は、
違和感を感じるかもしれませんが、志帆さんともご相談させて頂き
今回に関しまして、『あえて』そういう風に描かせて頂いています
ご理解頂けると嬉しいです
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これからのことを佐伯にちゃんと報告しようと思って、今夜は遺影の前に座ったのだった。
「好きなやつができたんだ。」
*
好きという気持ちは二者択一ではなく、同時に存在してもいいのだろうか。
ずっとそのことを、ぼんやりと考えていたけれど。
「あいつのこと、怒んないでやって。」
ぽつりと口をついて出た自らの言葉に、津田は苦笑した。
よりによって、そこか。
口に出すべき言葉が見つからないまま、ちびちび飲んでいたカップ酒は、いつの間にかほとんど底をついていた。
佐伯のグラスの水面は、いつまでもさざ波のような波紋で揺れている。
「ユキが幸せになるなら、それでいいんだよ。」
そんな都合のいいセリフを夢想してみるけれど、実際には佐伯はそんなに穏やかな男ではなかったのだ。怒っているかもしれないな、そう思うと、津田の心は逆に軽くなった。
「俺が死んだら、殴っていいから。」
津田はからになったカップを置き、佐伯の写真に手を伸ばした。親指でそっと頬に触れると、ガラス板の氷のような冷たさが、指のはらを冷やす。
いつまでも愛しい、一生を共にと誓った人。
でも。
「ごめんな。」
津田は佐伯のグラスをあおり、そのさざ波を一気に飲み干した。
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(小説文お借りしています。)