五月の幻影 LEVEL 3
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6個月前
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※無法編輯本作品標籤。
一週間ほど前から、左の耳に栓でもされたような違和感があった。
頭がボーッとしている変な感覚が続き、彼女は不安になった。母に相談すると耳の病気だという。家系的によくなるのだと。「あんたもそんな歳になったのね、ちょっと浮遊感もあるでしょう?」などと、なんでもない事のようにいう。
彼女は母にいわれた隣町の耳鼻科で診てもらった。そこのおじいちゃん先生は妙に親しげであった。調子が悪いのは左なのに、右耳から治療をしてくれた。「これで良くなったろう?」確かにそんな気がした。涼しいベットで横になって点滴をされながら、耳というのは左右で繋がってるのかな、と思った。
病院を出ると、何か頭も身体も軽くなった気がした。ちょっと遠回りして帰ろう、彼女は思った。忘れていたが、今は五月。五月晴れだ。こんな日なら、ずっと遠くまで感じることができそうだった。未来も、そして過去の誰かも。