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略奪騎士の断末魔

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4 years ago

  • original

  • 甲冑

  • 黒騎士

昔、遺跡を守る大柄な騎士がいた。彼は気が付くとそこにいたようで自分の名前も覚えていなかった。
わかるのは異様なまでに感じる満たされない心の渇きと遺跡にある【なんでも一つだけ願いを叶える宝】を千回守れば心の渇きが消えるということだけだった。
彼はなぜ心が乾いて仕方ないのか分からなかった。宝に願えば渇きは消えるとも考えたが、なぜか自分の願いは叶えてもらえなかった。
騎士は宝を狙うもの達を片っ端から潰していった。命を奪うたび心の渇きは和らいだがそれが乾きの理由なのか、または八つ当たりによる緩和なのかどちらかわからないままだった。しかし騎士は命を略奪することで我慢のしようのない乾きが少し癒えることに救いを見出した。
次々と宝を狙う者の命を無残に奪っていきいつしか遺跡を守る騎士の名は【略奪騎士】と呼ばれるようになった。
騎士自身も略奪することに酔っていた。
そして千回目の挑戦者が騎士の前に現れる、今までの挑戦者は腕の立つ傭兵団、盗賊団、小国の兵隊と強者ぞろいだったが最後の挑戦者は実に小さくひ弱な少年だった。
少年は言う「お前を倒して母さんの病気を治すんだ!」折れた古い剣を震える両手で構えた。
騎士にはどうでもよい話に思えた、略奪するに値する強者ではなかったが千回目の挑戦者。
これで心の渇きも消える。あっけなく少年に止めを刺すその瞬間であった、略奪騎士の剣が止まった
・・・少年をかばうように抱き抱える影、病気の母親だった。その体を引きずってまで我が子を連れ戻しに来たのだ。
ふと騎士の脳裏に電撃が走る。

それはまだ自分が遺跡の騎士ではなかった頃の記憶
とある小国の国王の双子の弟として産まれた彼は兄より冷遇されていた。
母親の寵愛は全て兄に注がれて、彼は心が乾いて仕方なかった愛されたかった。
小国が大軍に攻め込まれた最後の日、彼の母親は兄を連れて逃げ延び彼は置き去りにされた。
そう、彼は小国にまつわる宝によって【略奪騎士】となり生き延び現在に至る。
一つの願いを生き延びるための力に使ったことで【愛されたい】という願いは叶うことはなくなったのだ。
略奪騎士は【愛される】ということを奪うことができなかったただの孤独な少年だ。

騎士は願いを叶える宝を最後の挑戦者に渡すと瓦礫のように崩れ落ちた
その時の断末魔は大陸中に響き渡ったという。

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