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小説『桃紅柳緑』

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4 years ago

  • 小説

  • 男子高校生

  • 挿絵

小説『桃紅柳緑──アイツが俺を嫌いな理由と、俺がアイツのことが気になる理由──』著・当麻咲来さん
https://estar.jp/novels/24931169

P221~ 第十四章(4)
挿絵描かせて頂きました。
https://estar.jp/novels/24931169/viewer?page=221



****


声だけは必死に堪えたまま、代わりに嗚咽する呼吸が乱れていく。こんな風にアキが泣いたのは、去年の夏以来かもしれない。

 でも今日のアキはもっと辛そうで。なんで彼ばっかりこんな苦しくてつらい思いをするんだろうって、どうしようもなく怒りが湧いてくる。
 何よりアキが可哀想で、苦しくて息が止まりそうになる。

「ごめん……」
 アキを抱きしめて何度も謝る。いつからアキはこんな事で悩んできたんだろう。俺が好き勝手に、毎日楽しく友達と遊んでいる間も、ずっとその記憶が彼を苦しめていたのに違いなくて。そして、今回の事だって、俺がもう少しアキの事を気にしていたら、きっと彼の変化に気づけたはずなのに……。

「本当に、ごめん………」
 その度に、アキは小さく肩に顔を押し付けたまま、首を左右に振る。

「もう、こんな苦しい思いさせないから。俺がお前を守るから。……ずっと、傍にいるから……」
 自分に決意するように、何度もそう囁いて、その艶やかな髪を撫ぜる。

 俺なんて馬鹿でいい加減で、なんにもできない奴だけど、アキのためだったらアキにこんな想いをさせないためだったら、何でもやれるってそんな風に思う。

 だからいつもみたいに意地悪な言い方で、俺に冷たくしてくれていいから、いつもみたいに、どこか冷めてても綺麗な笑顔を、また俺に見せて欲しいって、ちっとも温まってこない冷たい背中を撫ぜて、アキの嗚咽が止まるまで、ずっと、抱きしめていた……。


***
(*小説お借りしています。

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