勇者と神官
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3年前
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頼むから。
俺のことはもういいから、
どうか、
失敗してくれ、と半ば祈るような気持ちで見つめる中、すべての呪文を唱え終わった神官は、薄く笑って目を伏せた。……満足げに。
その顔つきに、俺は絶望した。
稀有なまでに優秀な神官は、――成功したのだ。
「約束したのです。死の淵からでも呼び戻すと」
馬鹿な。
あれはただの軽口の応酬で、そんな重い約束ではなかっただろう?
やめろ。やめてくれ。
そんなこと俺は望んじゃいない。
神官の身体から、光の粒子が陽炎のように立ち昇る。
――それは命の灯。
蘇生魔法は成功した。
確かにそれは、正しく発動した。
しかし、禁断の魔法は神官の命を奪っただけで、勇者である俺を蘇らせはしなかった。
俺はたぶん絶叫した。
神官の名を呼びながら、その体に触れようと、必死に手を伸ばす。
しかし、精神だけで存在している俺の手が彼に届くことはない。
どんなに懸命に伸ばしても、どんなに切実に願っても、もう俺は――……