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召喚の狭間で

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6年前

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鏡面にも万華鏡にも似た世界の狭間。

"彼"は気付くと意識を持っていた。
胴体は毛に覆われ、手足は短く、尾が目先に伸びていた。
「猫」という生物の形態だと思い出すのに数拍の刻を要した。

自分という概念に身体の認知が再開したのは何時ぶりだろう。
何百年、少なく見積もって百年は"眠り"についていたに違いない。
朧げだった意識が徐々に輪郭線を帯びてくる。そうだ、自分にはやるべき使命がある。

極彩色の空間に一際輝きを放つ円環が目の前に現れる。
「その時」が来たのだと"彼"は察した。

理の底と現世を繋ぐ召喚の輪。
魔術の込められた拘束の集合体。
今まで幾度となくこれを見てきたがやはり慣れない。
召喚に失敗し、存在ごと"底"に落とされた同類者たちを多く見てきた。
思わずたじろぎ及び腰になる。

しかし自分に拒否権などは無い。
光を見た瞬間に契約は移行している。
応じなければ相応の報いが待っている。

円環が一層光を放ち、いよいよ覚悟を決める。
今度の御主人様はどんな人だろう。
まばゆい光に包まれ"彼"は目を閉じた。

周囲に渦巻いていた光と風が凪ぎ、身体が下に引っ張られる感覚が鮮明になった。
足の裏にはっきりとした固い「底」がある。
どうやら今回も無事に召喚されたらしい。
何も感じなかったあの空間とは違い、五感が一気に研ぎ澄まされる。
体を撫でる草には見覚えがあった。
嗚呼、懐かしい匂いだ。

昂ぶる心を悟られまいと息を吐いた。
"威厳を保ち、品位を纏え"
頭の中で反芻しながら"彼"は目前の人物を見据え、毅然と言い放った。

「我が名は⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。
 貴殿の新たなる導きとして召喚された使い魔である。
 理に相応しき行いを実現せよ!」

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