短編小説 『魔女の子』②
私たちは「宵闇の魔女」と共に、小さな家に住んでいた。
____家、と言っても、周りとは違う。
とんがった屋根の、魔女の帽子みたいな形の屋根で、すごく目立つ。
夜になると月の光を反射して、キラキラと青紫色に薄ぼんやりと輝いていた。
庭には「星のなる木」が1本生えていた。
雷がたくさん落ちた後のような、黒焦げの、葉も生えないような木だった。
そのみずぼらしい枯れ木の枝は真っ直ぐ天に向かって伸びていて、枝の先に星がくっついている。
宵闇の魔女は「光の実」と呼んでいた。
すごく田舎のへんぴな土地で、夜になると光1つ届かない。
この土地を収めている魔女様は、夜に私たちを連れて歩き回って、毎日「光の実」を集落の人々に届ける仕事をしていた。
私たちもよく手伝っていて、村の人たちからたくさん「ありがとう」と言われた。
困っている近くの集落の人や、旅人に分け与えることもあった。
魔女様は光を届ける代わりに、お礼として野菜や果物をもらっていた。
私たちが尋ねた時は、たくさんお菓子をもらうこともあった。
毎日が楽しくて、3人でこの先も暮らしていけるのだと疑わなかった。
____一方、他の地域では魔女狩りが流行していた。
魔女や魔法使いを悪とする人々が徒党を組んで、領地を襲い始めた。次々と魔女たちが炎に焼かれ、殲滅されていった。
残った土地は、焼け野原と化した。
そのうち、村には「魔女は悪いやつだ」という噂が立ち始めた。
魔女様の光の実に助けられてきた村の人たちは、魔女様を信じて疑わなかった。
私たちも、魔女様が大好きだった。
今まで通り、お昼に出かけられない魔女様に代わって買い物をしたり、村の人たちとおしゃべりをしたり。
そんな普通が続いていたある日、魔女様が私たちに言った。
「おまえたちはもう、ここに居てはいけないんだよ」と。
それがどういうことなのか、よく理解出来なかった。
星が綺麗な夜だった。
魔女様はよく、「今夜も綺麗だ」と笑っていた。今日も、笑っていた。
そして、言ったのだ。
まるで、「おはよう」や「いただきます」と同じような、自然な口ぶりで。
よく分からない。
どういうことなんだろう。
呆然としていると、魔女様は私たちの肩に手を回して、抱き締めた。
びっくりした。
あんまりこういうことをする人じゃなかったから。
なんだか、すごく、「いけない」と思った。
何故だかは、分からないけれど。
しばらくそうしていた。
私たちも、魔女様から離れたくなかった。
ふと、力を緩めて、奥の部屋に消えていった。
戻ってきた彼女の手には、青く光る蝶の飾りが握られていた。
ふわふわ、と部屋にいた蝶が、飾りの方に向かって集まっていく。
「明日は、これを付けていくんだよ」と彼女は言った。
手渡されたそれは、淡く光っているように見えた。
壁にかけてあるワンピースのポケットに入れる。
そのワンピースは、常人が一目見れば分かるほど、値段が張るものだったけれど、私たちには分からなかった。
だってまだ、着たことがなかったんだもの。
「明日は____」
そう言って魔女様が用意してくれたもの全て、見覚えのないものだった。
壁にかけてあるワンピースも、床に置いてある旅行鞄も、その上に置いてある帽子も、全部。
いつの間に買ったのか、私たちには分からなかった。
靴は、いつも街に行くときにだけ履いていたものが、まるで鏡のように、ピカピカに磨かれていた。
最後に、地図と、魔力のこもった石をいくつかもらった。
この場所にある「孤児院」を訪ねるように、言われた。
地図には、細かい道順と、石の使い道、「キース・ホークエンス」と書かれていた。
それから、一晩開けて。
目が覚めると、魔女様は居なかった。
2人でテーブルに用意されていたパンをかじる。
スープも、まだ温かかった。
魔女様の食器はもう片されていた。
日光が苦手で、昼間に外に出ることは滅多になかった。
街に行くときや、買い物以外は、昼間のほとんどを家で過ごしていたのに。
彼女に言われた通り、着替えて準備を整える。
これから、遠いところまで行かなければならない。
「お姉ちゃん、待ってよ」とてて、と後ろを追いかけてくる。
「早く行くわよ」
「なんでそんなに急ぐの?」
「____なんとなくよ」
なぜか、と聞かれてしまうと、とっさに理由が思い浮かばなかった。
リゼはそのまま、リズの手を握り、一緒に家を出る。
ここから先は、街へとつながる一本道だ。
いつもは街まで歩いていくけれど、今日は違った。
途中の森のところで、地図の道が止まっていたからだ。
「ここかしら‥‥‥‥?」2人で地図を覗き込む。
「どれだっけ?私が持ってるかな‥‥‥‥?」とリズがワンピースのポケットをまさぐる。
「あった‥‥‥‥!!」リズのポケットから、白く光る丸い石が顔を覗かせる。
そこには月のような、動物の足跡のような模様が書かれている。
地面に視線を落とすと、同じ模様の書かれた岩が地面から突き出ているのが見えた。
「ええっと‥‥‥‥?」
「これを嵌めるのかしら‥‥‥‥?」
見たところ、ただの岩だ。
高さも2人の膝辺りまでしかなく、大人が見れば「ちょっと大きくて尖った石」程度だろう。
模様も、よく見なければ分からないほどに掠れている。
探してみたけれど、何かを嵌められるような窪みは見当たらなかった。
地図に石の使い道が記されているが、「ここにはめる」としか書かれていない。
岩の前で試行錯誤すること数分。
「これ、もしかして‥‥‥‥」
石の模様を岩に向けるようにして近づけると、岩に書かれた模様が浮かび上がってきた。
「これで合っているみたいね」
2人は手を繋ぎ、石を近づけていく。
身体が浮き上がる感覚。
目の前が白くなる。
その模様が完全に合わさった時。
2人の少女は姿を消していた。
____家、と言っても、周りとは違う。
とんがった屋根の、魔女の帽子みたいな形の屋根で、すごく目立つ。
夜になると月の光を反射して、キラキラと青紫色に薄ぼんやりと輝いていた。
庭には「星のなる木」が1本生えていた。
雷がたくさん落ちた後のような、黒焦げの、葉も生えないような木だった。
そのみずぼらしい枯れ木の枝は真っ直ぐ天に向かって伸びていて、枝の先に星がくっついている。
宵闇の魔女は「光の実」と呼んでいた。
すごく田舎のへんぴな土地で、夜になると光1つ届かない。
この土地を収めている魔女様は、夜に私たちを連れて歩き回って、毎日「光の実」を集落の人々に届ける仕事をしていた。
私たちもよく手伝っていて、村の人たちからたくさん「ありがとう」と言われた。
困っている近くの集落の人や、旅人に分け与えることもあった。
魔女様は光を届ける代わりに、お礼として野菜や果物をもらっていた。
私たちが尋ねた時は、たくさんお菓子をもらうこともあった。
毎日が楽しくて、3人でこの先も暮らしていけるのだと疑わなかった。
____一方、他の地域では魔女狩りが流行していた。
魔女や魔法使いを悪とする人々が徒党を組んで、領地を襲い始めた。次々と魔女たちが炎に焼かれ、殲滅されていった。
残った土地は、焼け野原と化した。
そのうち、村には「魔女は悪いやつだ」という噂が立ち始めた。
魔女様の光の実に助けられてきた村の人たちは、魔女様を信じて疑わなかった。
私たちも、魔女様が大好きだった。
今まで通り、お昼に出かけられない魔女様に代わって買い物をしたり、村の人たちとおしゃべりをしたり。
そんな普通が続いていたある日、魔女様が私たちに言った。
「おまえたちはもう、ここに居てはいけないんだよ」と。
それがどういうことなのか、よく理解出来なかった。
星が綺麗な夜だった。
魔女様はよく、「今夜も綺麗だ」と笑っていた。今日も、笑っていた。
そして、言ったのだ。
まるで、「おはよう」や「いただきます」と同じような、自然な口ぶりで。
よく分からない。
どういうことなんだろう。
呆然としていると、魔女様は私たちの肩に手を回して、抱き締めた。
びっくりした。
あんまりこういうことをする人じゃなかったから。
なんだか、すごく、「いけない」と思った。
何故だかは、分からないけれど。
しばらくそうしていた。
私たちも、魔女様から離れたくなかった。
ふと、力を緩めて、奥の部屋に消えていった。
戻ってきた彼女の手には、青く光る蝶の飾りが握られていた。
ふわふわ、と部屋にいた蝶が、飾りの方に向かって集まっていく。
「明日は、これを付けていくんだよ」と彼女は言った。
手渡されたそれは、淡く光っているように見えた。
壁にかけてあるワンピースのポケットに入れる。
そのワンピースは、常人が一目見れば分かるほど、値段が張るものだったけれど、私たちには分からなかった。
だってまだ、着たことがなかったんだもの。
「明日は____」
そう言って魔女様が用意してくれたもの全て、見覚えのないものだった。
壁にかけてあるワンピースも、床に置いてある旅行鞄も、その上に置いてある帽子も、全部。
いつの間に買ったのか、私たちには分からなかった。
靴は、いつも街に行くときにだけ履いていたものが、まるで鏡のように、ピカピカに磨かれていた。
最後に、地図と、魔力のこもった石をいくつかもらった。
この場所にある「孤児院」を訪ねるように、言われた。
地図には、細かい道順と、石の使い道、「キース・ホークエンス」と書かれていた。
それから、一晩開けて。
目が覚めると、魔女様は居なかった。
2人でテーブルに用意されていたパンをかじる。
スープも、まだ温かかった。
魔女様の食器はもう片されていた。
日光が苦手で、昼間に外に出ることは滅多になかった。
街に行くときや、買い物以外は、昼間のほとんどを家で過ごしていたのに。
彼女に言われた通り、着替えて準備を整える。
これから、遠いところまで行かなければならない。
「お姉ちゃん、待ってよ」とてて、と後ろを追いかけてくる。
「早く行くわよ」
「なんでそんなに急ぐの?」
「____なんとなくよ」
なぜか、と聞かれてしまうと、とっさに理由が思い浮かばなかった。
リゼはそのまま、リズの手を握り、一緒に家を出る。
ここから先は、街へとつながる一本道だ。
いつもは街まで歩いていくけれど、今日は違った。
途中の森のところで、地図の道が止まっていたからだ。
「ここかしら‥‥‥‥?」2人で地図を覗き込む。
「どれだっけ?私が持ってるかな‥‥‥‥?」とリズがワンピースのポケットをまさぐる。
「あった‥‥‥‥!!」リズのポケットから、白く光る丸い石が顔を覗かせる。
そこには月のような、動物の足跡のような模様が書かれている。
地面に視線を落とすと、同じ模様の書かれた岩が地面から突き出ているのが見えた。
「ええっと‥‥‥‥?」
「これを嵌めるのかしら‥‥‥‥?」
見たところ、ただの岩だ。
高さも2人の膝辺りまでしかなく、大人が見れば「ちょっと大きくて尖った石」程度だろう。
模様も、よく見なければ分からないほどに掠れている。
探してみたけれど、何かを嵌められるような窪みは見当たらなかった。
地図に石の使い道が記されているが、「ここにはめる」としか書かれていない。
岩の前で試行錯誤すること数分。
「これ、もしかして‥‥‥‥」
石の模様を岩に向けるようにして近づけると、岩に書かれた模様が浮かび上がってきた。
「これで合っているみたいね」
2人は手を繋ぎ、石を近づけていく。
身体が浮き上がる感覚。
目の前が白くなる。
その模様が完全に合わさった時。
2人の少女は姿を消していた。