小説挿絵『ただΩというだけで。』 LEVEL 3
4年前
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小説『ただΩというだけで。』著・彩月志帆さん
https://estar.jp/novels/25284114
P351~
【番(つがい) 19】挿絵描かせて頂きました。
https://estar.jp/novels/25284114/viewer?page=351
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どうして笑ってくれるんだろう、こんな状況で。
酷い痛みに、全身を震わせながら……
津田の優しさに胸が痛み、乾はただ、謝ることしかできなかった。
「みんな、こうなんだろ?」
苦しい息の下からそう問われ、言葉を失う。
津田の首に押し当てたのは、綿のシャツだ。その白い生地が、みるみる赤く染まっていく。
血が止まらない。
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対応を迷った乾が再び顔を覗き込むと、津田の虹彩が上辺を虚ろに揺れている。
声をかけようと息を吸い込んだ時、独り言のように眠気を訴えた彼に、背筋が凍りついた。
長い睫毛が、ゆっくりと眼球に幕を下ろしていく。
「津田さん…… っ!!」
小さな謝罪の言葉を残して意識を失った津田は、どんなに呼んでもそのまま、目を覚まさなかった。
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ホッとしたせいか、発情の熱が冷めるのと比例してクリアになるはずの意識が、朧になってゆく。
「なんか、眠いな…… 」
津田は気づいていなかった。
うなじに押し当てられたシャツが既に、真っ赤に染まっていることに。
そして、失血している自分と同じくらい、乾の顔が蒼白だということに。
「ごめん俺、ちょっと寝る、かも…… 」
掠れた声でそう呟き、津田は重いまぶたを閉じた。
疲労した身体と意識が、暗く温い沼に沈んでいく。
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(*小説お借りしています。
が、本来の小説の形ではなく、それぞれの視点を、抜き出させて頂いています。
ぜひ、本編をご覧頂けたら嬉しいです。