小説挿絵『桃紅柳緑』
3 years ago
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小説『桃紅柳緑──アイツが俺を嫌いな理由と、俺がアイツのことが気になる理由──』著・当麻咲来さん
https://estar.jp/novels/24931169
P202~ 【第十二章(15)】
https://estar.jp/novels/24931169/viewer?page=202
挿絵描かせて頂きました。
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「俺の風邪、うつしてもうたかな……」
アキがポツリと言葉を零す。
「ま、アホやから、大した風邪にはならんやろけど」
いつも通り冷たい一言を付け加えて、でも彼の言葉で、一瞬、頭の中に昨日の光景がフラッシュバックする。
俺、風邪うつるような事……しちゃったよな。……多分一杯……。そう思いだした瞬間に頭痛がし始める。
「………った~」
思わず顔をしかめると、
「多分うつしてもうたんやわ。………ごめんやで。昨夜、色々………」
首をかしげて俺の顔を覗き込み、途中で意味ありげに言葉を止める。
「……慶に、色々……」
くすりと、アキが笑う。その笑みは気のせいか、ひどく色っぽくて。小悪魔みたいな、魅惑的な笑みで。
「……お世話してもろたからやわ……」
アキの言葉に、ゾクリ、と全身が甘く総毛立つ。アキの声音は、昨日の夜の『もっと、ほしい……』って言っていたあの蕩けるような甘い声と同じトーンで、って……昨日の事、アキ、全部覚えている?
思わずがばっと身を起こすと。朝の眩しくて清らかな光の中、ふんわりと、どこか泣きたくなるほど優しい笑みをアキが浮かべていた。
「……ほんま、おおきに」
朝日に溶けるように、柔らかく囁く。そっと一瞬、優しく俺の頬に触れて、俺を寝かしつけるように布団にそっと押しつける。
「……ほんま、慶はアホやから……」
うつむき加減に言うその台詞は、今まで聞いたより、どこかずっと甘い声みたいに思えてしまうのは、俺の頭が熱に侵されているからだろうか?
「……先生には風邪って伝えておくわ。ちゃんと寝とき……」
向こうを向いたまま、アキはそうつぶやいて、それから、静かにゆっくりと、部屋を出て行った。
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小説お借りしています。